「存在するものはいつか滅びる」。それは、万象に課せられた摂理。
度重なる戦争によって人類が絶滅してから、約百億年後の世界。
「寿命」という抗いがたきシステムに従って、多元宇宙そのものもまた、滅亡を迎えた。
残ったのは、かつて世界だったものの塵、遠い未来に世界になるかも知れない可能性の雲、そして、一つの結晶と一人の少女。
虚無の世界にやってきたあなたは、唯一、明確に存在していると思しき少女に声を掛けられる。
「わたしは<歴史編纂者(インタープリター)>。昔は人間達に"記憶の女神"なんていう風に呼ばれてたんだ。だから、神様みたいなものだと思ってくれて良いよ」
神を名乗る少女<歴史編纂者>によれば、彼女が腰掛けており、虚空に浮かんでいる結晶は、高次元存在を引き込む機能を有しているらしい。彼女自身も「過去を具現化する能力」を有する高次元存在であり、かつて生きていた人類が結晶に遺した「世界が存在した証までは消させないでくれ」という願いがそれを動かし、彼女をこの次元へと引きずり込んだのだという。
「酷いよね。わたしを呼んでおきながら、みんなして消えちゃって……とまあ、それはさておき。
あなた……<記述なき者>を呼んだのには訳があるの。
わたし、かつてここに存在した、たくさんの並行宇宙の出来事を全て記録するのが趣味だったの。気が向いたら一部の人間にも見せてあげてたりしたよ。
でも、宇宙崩壊に巻き込まれて、その記録……<アカシアの記録>が壊れちゃったんだ。あれはわたしという存在の集大成だから諦める訳にもいかないし、とはいえわたし自身が覚えていられる物事の量にも限界があるから復元も出来ないし……そこで!」
<歴史編纂者>は屈託のない笑みを浮かべ、あなたの手を握る。
「わたしと同じ高次元の存在、つまりはあなたに手伝って欲しくて、この結晶を使ってここに呼んだんだ。
何をして欲しいのかと言うと、わたしが覚えている限りの"登場人物"を選んで、彼らに戦わせて欲しいの。
あ、今"なんでそうなるんだ"って思ったでしょ?
命の歴史というのは結局、戦いの歴史なんだよ。世界に存在する全ては等しく正しい。誰もが自分自身の正しさに邁進しているからね。だからこそ、命は他の何かを奪う。そうして残った者が"正史"を紡いでいく。
……要するに、"戦いを繰り返して出た結果こそが、恐らくは正しい歴史の記録だろう"という訳。つまりはシミュレーションというやつだね。
そういう訳だから、もし良ければひとりぼっちのわたしを手伝って、この宇宙で最後の争いを起こしてくれないかな?
満足して死んでいった"登場人物<あの子達>"に再び戦わせるのは申し訳ないけれど、きっと、あの子らが生きた証が何も遺らないよりは良いと思うから」