top of page
​各種組織・家系解説
■魔術学会

 魔術師の総本山である組織。現在主流となっている魔術はすべて魔術学会から始まり、全国に広まって、大小さまざまな魔術結社を生むこととなった。

 本部は、ロサンゼルス郊外に有る、大学状の施設である。しかし、それらの広大な敷地は魔術的に隠蔽されているため、一般人は「その未知の施設が何であるか」を気にすることが出来ない。

 また、全国の各都市に設置されている「支部」と呼ばれる集会場も、物理的には本部と接続されており、各所に在る転位結界から向かう形になる。

 

 学会の意思決定は、「学会中枢十八席」と呼ばれる、魔術の十八種類の学派それぞれのトップの会議によって行われる。

 本来ならば、魔術学会の中でも最高位の存在であり、最も発言力を持つのは、第一席、魔術の最大勢力である識術師のトップである、アンファングという少女だが、実在するかどうかも不確かである程に姿を現さないため、他の学派は、ある程度均一なパワーバランスを保っている(実際には、儀式魔術などの規模の小さい学派は、それだけ発言力も弱いが)。また、第十八席、学会に認められている中では唯一の理言界魔術である、数理魔術の長、エルミリアという少女も、滅多に会議へ姿を現さない。しかし、「姿を見たことがある」という人間はたまに居るため、全く表へ出てこないという訳ではないようである。

 魔術学会全体の意思としては「中立及び不干渉」を掲げている。即ち「一般社会との間には、一線を置くこと」を方針としている。これは「一般社会に何があろうと、知らない振りをする」という意味ではなく、「魔術師が何らかの甚大な介入を行えば、それを抑止する」という意味での、積極的な不干渉維持を示している。そのため、積極的に通常人の社会へと介入し、望む形に変容させようと目論む《神殿》に対しては、常に睨みを利かせている。《神殿》以外の、各国の魔術的結社の調査及び監査も行っているが、それは追いついていないというのが実情である。

 学会は、概ねその方針を貫くことに忠実であるし、個々の魔術師も、そうである事が求められる場合が多い。しかし場合によっては魔術だけでなく、その他の特別性も関与してくる事がある。その為、必要だと考えれば、他の機関に協力を仰ぐことも厭わず、そういった意味では柔軟性の高い組織である。

 なお、危険な魔術師を抑止した際の事後処理は、基本的には捕獲・拘置である。その点では、一般的に言って、殺害することに容赦のない斑鳩機関よりは情けがあると言える。

 最近、《終端に立つ者(ターミナス)》と呼ばれる、「戦闘に特化した魔術師」を集めた戦闘部隊を結成したようだ。

 
■斑鳩機関(いかるがきかん)

 神領家の血を継ぐ者達により組織された戦闘機関。

 神領家の家訓である"日本の守護"を、その血に宿る異能により遂行する為の組織である。

 個人の理由は様々だが、彼らが全体として持っている、戦う理由は、世界の守護ではなく、飽くまで日本の守護。

 その為、戦争が起きれば彼らは国に仇なす戦力を攻撃してきた。

 彼らが目下最大の脅威と見なしているのは《特異》であり、組織員の多くは、その撃退に力を注いでいる。

 彼らの主な戦闘方法は、その血統から引き出す、魔術でも特異能力でもない、秘術である。

 秘術は、今ではすっかり体系化された魔術と違い、至ってオカルティックな扱いがなされている。

 "気"や"霊力"などといった至極曖昧な言葉を用いて、戦闘技術を構築するのだ。

 例えば、彼らが気を込めて文字を描いた呪符は、実際に力を持つ。

 そうやって作った呪符を携帯し、必要なときに敵対者に投げつける等といった使い方がされている。

 そして、彼らの有するもう一つの技が、汎用格闘戦闘技術《斑鳩法》。

 これは、体内に流れる気を操って効率的にダメージを与えるという技術である。

 体内を巡る気を固定化させ、それを意図した種類の力に変換させた後に外界との接触面に流し、そして蓄積されたその力を余す事無く放出する、という一連のプロセスで実行される。上級者になるほど、その速度は増す。

 こちらは、実際には神領の血が混じっていなくても使用することができ、神領烈花が、特別性に関する事件・事故の被害者になったり巻き込まれたりした者のために講座を開いている。そのため、現在は幾らかこの戦闘技術は広まり、様々な派生の型が生まれている(なお、その全てが、烈花の用いるオリジナルの《斑鳩法》に劣る)。

 神領家の力を秘めた血は、どちらかといえば女性に強く発現しやすい。そのため、"気を制御しやすい"ことを理由に、神領本家に近い血族にある娘らには、専用の、巫女装束のような服装が用意されている場合がある(一種の慣習であり、実際には衣服自体が何らかの異常性を持つ訳ではない)。

■惟神(かんながら)

 日本に存在する極秘特務機関。「神の御心のままに」という意味の名を持つ。本部は霞が関のビルの最上階にある。

 福羽聖司(ふくば・せいじ)という青年が組織員に指示を出している。

「世界全体において、日本が支配的な立場までのし上がること」を究極目的としている。その為の準備活動として、独自の"特別性"である「神性顕現」という、神の力を現実上にもたらす技術を用いて、社会の裏側で活動を行っている。

 日本政府とは立場上は独立しているが、実際のところは繋がりがあり、政府の中でも"特別性"について理解のある一派は(大抵は懐疑的であるが)、内密に惟神を動かすという事がしばしば起こる。

「国の為に」という点では、神領家の有する斑鳩機関と同様な方向性を有しており、実際、かつての世界大戦の裏で起きていた"常識外の力による抗争"では、共同戦線を張っていたこともある。

 しかし、必ずしも友好的なのかと言えばそうでもない。斑鳩機関が、飽くまで「日本の守護」を目的としているのに対し、惟神は、より積極的な関与を目論んでいるため、斑鳩機関は、それがかえって日本に悪影響を及ぼすのではないかと警戒しているのだ。

 とはいえ、やはり「日本を害する異分子は許さない」という姿勢は同じであるため、現在では――例えば魔術学会と《神殿》のように――明確に敵対した関係ではなく、互いに注意しながらも、必要であれば協力的な態度を取っている。

 しかし、そのような防御的な立場を取る「保守派」に対し、かつての惟神の実質的支配者であった鳴神六堂(なるかみ・ろくどう)の意志を継ぎ、世界に革新をもたらそうとする「旧態派」も未だに存在しており、組織全体が一枚岩とは言えない。

 

 斑鳩機関が、古来より継承されて現在には広く拡散した、神領家の血統によって成り立っているのに対し、惟神は、明治時代に政府が設置した「神祇省」という機関を大本にしている(詳細はスキル:惟神の項に記載)。現在は防衛省下の「特別事案対策局」ということになっている。

■環境局

 正式名称「環境省生活環境局都市保安課」。ここに地域名を入れた○○分室が活動時の単位となる。

 局長は「六実合理(むつみ・あいり)」という女性。

「何らかの”環境変異”によって、生活する市民の安全が害されることを防ぐ」ために環境省に増設された組織で、厚生労働省、気象庁などと連携しながら、都市の異変を調査することが主目的。

 

 社会の裏側においては「魔術組織でもある」という認識がなされている。(環境局自身はその認識は持っていないが。)それはひとえに、この「環境変異」に「魔術・異能といった超常現象によるもの」が密かに含まれているためである。

 『惟神』や『斑鳩』が時に大のために小を切り捨てる判断をとりうるのに対し、あくまで小市民の生活の側に立ち、表の行政に働きかける組織である。ただし、その成り立ちから日も浅く、一部を除くほとんどの職員は超常の側を知らない一般職員であり、国益のため政府と深く結びついている惟神などと比べると、発言力は弱い。現場では情報封鎖等の憂き目にあうことも多い。

 しかし、表側社会に重きを置く彼らだからこそ持ち得る強みが存在する。

 本来、秘して然るべき超常を「科学」という文法で解析、理由づけし、それを「ありきたりなもの」として地に堕とす行為である。

 魔術師が各々の世界観によって世界を捉え、その体系に従った魔術を使っているのと同様に彼らは、表側の現実に即した「科学」という世界観で全ての本質を捉えようと試みる。

 

 その立場上、超常を行使する存在と戦闘になることもある。その場合、彼らは決して、強力な異能や魔術を用いることが出来る相手に有利とは言えない。しかし、合理の俯瞰能力および「不条理を条理に落とす力」を職員が「借用」することによって、超常の存在を自らの領域に引きずり込み、強制的に有利性を損なわせた上で戦闘することが出来る。

 即ち、彼らのうちの多くの、異能を持たない職員の攻撃方法は「体術」や「武器」となるであろう。

 このことから、外に出て調査に乗り出す実働職員は、四条五花(しじょう・いつか)なる女性が構成した、現代科学の叡智を結集した理論に基づく体術、また、合理の能力である「俯瞰視覚」(即ち、視点分離)の状態下での戦闘技術、逮捕術などを総合的に盛り込んだ「四条式実戦格闘術」を習得している。

 環境局員が超常的案件に携わるには、一定の実技的能力を認定する免許、通称「第二種」の取得が必要となるが、その必修項目にも「四条式」は含まれている。

 

 合理に端を発するこの組織がその先に何を見据えているのか。それは末端職員には知らされていない。

 職員たちはただ市民を守りたいがために、世界の表裏の境界を彷徨っている。

■東岸(とうぎし)家

 日本に存在する特殊な家系で、神領家とは双璧をなす存在とも言える。

 この家系に属するものは、何らかの特別性を宿し、一般の中に埋没できない運命を辿ることになる。

 それは云わば、"物語の重要人物になる権利と義務"とも表現することの出来る性質である。

 神領家に比べて歴史はかなり浅いが、本家に属する東岸定理や東岸背理は、絶大な力を有する。

 血統そのものに意味がある神領家とは違い、東岸家は、"東岸"という名前が力を宿しているため、養子であっても、その者に影響を及ぼす。

 "直感的な力"に長ける神領家に対して、東岸家は"理性と思考の力"に優れており、思考処理を2~64の処理系統に分割して並列的に行うことが出来る、多重高速思考能力を有する東岸姉妹によって、更にその傾向は強まった。

 東岸家は、その名が持つ力を継承し、この社会の闇に潜んでいる"特別性"、即ち"常識あるいは一般性から外れたもの"を管理することを家訓としているが、東岸第五世代である定理と背理の姉妹は、家訓というよりは、独自の価値観・信念に従って行動している節がある。

​ 現在はほぼ定理一人の意志によって動いており、特別性の中でも《特異》を管理することに対して、偏った執着を見せている。

 
 
■惟神旧態派

 惟神の中でも、旧来の覇権的思想を唱える派閥。福羽聖司曰く「年寄り共」。

 その構成員や活動内容を知るものは組織内部においても少なく、影から「表の惟神」への影響力を及ぼしている。

 しかし、2014年に旧態派の一人である天田正孝が起こし、市街規模の危害を出した「朧月事件」によって、その存在と危険性が他の組織にも知られることとなった。

 単独の指導者は居ないとされるが、実際には鳴神六堂一人の意志・思想に従っている。その為、現在においては組織の理想も「日本を世界の頂点にする」ことから「あらゆる反対者を敵に回してでも、世界の秩序が保たれるように改革する」ことになっている。

 現在は、その為に必要な「新たな神」の創造方法を模索しているようだが、六堂自身が構成員の前に現れることは稀であるため、それぞれが思い思いの方法で理念を実現しようとしており、朧月事件のような「暴走」も見られる。

 

 元々、惟神を支配していたのは彼らであるため、強力な神性顕現の使い手が居る他、六堂が外部から誘致した異能者などが加わっている。その為、たかが一派閥でありながら、組織的影響力だけではなく、全体の武力も非常に高いとされている。

 主な異能者は以下の者達である。

▼鳴神六堂(なるかみ・ろくどう)

 黒髪短髪の軍服を来た男性。青年のように見えるが実年齢は不明。

 かつての惟神の局長であり、現在でも旧態派においては実質的指導者とされる。

 自らの理想を実現するための方法を模索しており、あまり人前に姿を現すことはないが、一部の人間には直接、自らの意思を伝えることもある。

▼神領逆凪(じんりょう・さかなぎ)

 黒髪の女性。19歳。生まれは神領の或る分家であり、使用する体術にもその趣が見られる。しかし、家系に対する憎悪に塗れた祖霊「逆凪」を宿したこと、彼女自身の性格から、現在は本家からも分家からも絶縁状態。

 気が短く攻撃的であり、以前から、秩序を守るためには「受け身の守護」などではなく「攻勢に出ること」が必要だと捉えていた。その為、惟神に所属することにしたが、実際には、現在の惟神は保守派への移行が進んでいた。

 そんな中、朧月事件が発生し、その調査に向かうことになる。その折で旧態派との相互認識が出来、事件終結後、鳴神六堂から「お前の力を最大限利用してやる」と誘われ、それを進んで受諾することとなった。

▼千代田暁(ちよだ・さとる)

 黒髪・中肉中背の陰気な表情の男性。26歳。淡々と任務を遂行するが、恋人の前では優しい振る舞いを見せる。

 数年前は一般人であったが、或る特異存在が被害を出したことにより、自身は特異能力に覚醒して救われたものの、恋人は瀕死の重傷を負う。

 この際、たまたまその場に派遣されて来ていた惟神旧態派構成員が「彼女を救う」ことを約束し、旧態派傘下の病院に収容した。

 実際には、「恋人の命を保証する代わりに、組織の命令で動いてもらう」という形で暁の力を利用するための罠であり、彼女を人質に取られた暁は、渋々、惟神の下で働いていた。

 表向きは「正規の惟神構成員」であるものとして、聖司の命令で動いているが、旧態派が動き出した時に、そのままで居る可能性は決して高くないだろう。

 一方で、決して組織に自分の意志を重ねていないことから、旧態派に対して何らかの形でのカウンターとなる可能性もある。

▼天田正孝(あまだ・まさたか)

 黒髪の柔和な雰囲気の、眼鏡をかけた青年。27歳。

 大正~昭和の時代、六堂に協力していた、天田正文(-まさふみ)という男の子孫。その為、「なるべくして旧態派になった」といった感じであり、コネクションを多く持つ。

 旧態派内での権力はそれなりに高く、傘下の魔術テロリストや、六堂の息がかかっている自衛隊を動かすほどの権限を持つ他、自身も高い魔術技能や特異能力を持つ。

 熱烈な六堂シンパであり、彼の理想を実現するため、「人工の神を生み出すことによって、世界を一度壊し、作り直す」ことを目指した「朧月事件」を発生させる。大都会・朧月市を自衛隊によって封鎖し、市内に多くの一般人の犠牲者を出し、SNS上の話題にもなった当事件によって、旧態派という存在が、惟神外の各組織に認知され始めた。

 但し、六堂自身は決して「今の世界を否定すること」は望んでいないため、本件は完全に、彼の暴走行為だと言える。

 朧月事件において殺害されたと思われていたが、惟神旧態派所有の病院で治療を受けているらしい。

▼彩雲彼岸(さいうん・ひがん)

 ウェーブのかかった金髪の少女。18歳。

 フランス系日本人の設立した犯罪組織「彩雲組」の現組長であり、その立場を知る者からは《シャノアール(黒猫)》と呼ばれることが多い。

 小柄で非常に愛嬌がある反面、「その姿を見たら死を覚悟せよ」と言われるほどに残虐性が高い。

 惟神旧態派とは利害関係の繋がりであり、組の活動を支援する代わりに、惟神の非合法な汚れ仕事を引き受けている。

 外見に反した圧倒的なカリスマから、組内構成員からの信頼と畏怖が篤く、彼女の命令ならば何でも聞く。また、本人も「他者の認識を改ざんする」類の異能者であり、銃器の扱いにも慣れているため、戦闘能力が劣ることはない。

 基本的には他人を尊重しないが、「社会」に留まらず「世界」を本気で変えようとしている六堂には、心の底から憧れている節がある。

■ホスピタル

 人間の心理、特に、精神ネットワークに作用する技術について研究を行う、極秘研究機関。

 その存在は公になってはいないため、社会の表舞台に立つことはないが、近年設立された、制霊(せいれい)医療心理大学という、心理学を専門とする大学のバックには《ホスピタル》が存在すると噂されている。実際のところ、大学の学生の中でも最優秀な者は、しばしば《ホスピタル》から加入を要求されることがある(拒否した者がどうなるかは不明)。

 制霊大学では、《ホスピタル》の研究内容である、「心理的効果によって万象を支配する」といった内容の基礎を実践的に学ぶ。具体的には、精神ネットワーク上で心理的効果を与えることによる治療促進や、自己の客観視を促進する等。これらを応用することで、敵対者の精神掌握も可能となり、極めれば「心理作用によって、精神的に人を殺す」事も可能となる。

 《ホスピタル》では、生きた人間を対象とする精神制御実験がしばしば行われているという噂が絶えないが、機関に不利な情報はほぼ揉み消されるため、実態は不明である。

 また、独自の裁量権を持つ、多くの小研究所を配下にしており、それらは「第零七機関」など、数字で呼称される。彼らが暴走行為をなすことも多いが、《ホスピタル》本部が自らそれを抑止する場合は稀である。

■神殿

 魔術学会に次ぐ規模を持つ魔術的組織。魔術結社としては、最も過激な部類に入る。

 ある種の選民思想を持っている集団であり、通常人より優れた能力を持っている魔術師に、世を忍ぶ義務はないと考えている。

 世界中に数多く存在している魔術結社を統制し、通常人との共存を取り計らう役割を持っている魔術学会とは相反しており、動きを見せる度に、魔術学会に妨害を受けている。

 魔術師で構成された戦闘部隊を保持しており、世界各地で起きている紛争等に干渉していることもある、武力組織としての一面を持つ。

 魔術学会は、各国の政府に対して中立と不干渉を貫いているのに対して、神殿は、積極的に社会の支配層に取り込み、暗部から支配していくことを目論んでいる。

■狩猟者の剣

 《偽世界》に唯一存在する政府の、直属実働部隊。V∴G∴とも呼ばれる。

 少数の精鋭魔術師で構成されており、政府の指示に従って"荒事"をこなす。

 IからXIIの十二の席があり、より強い者が既存のメンバーに取って代わることになる。

 戦闘能力重視で入隊の可否が決定されるため、メンバーには、何処か人間性に問題を抱えた者が多い。

 特に、現在の最高戦力であるアマリアは、先代のナンバーⅠを殺害したうえで入隊している。

 組織の魔術師には、魔術(≒識術)の到達度合いに応じて、位階が設定される。

■一意(いちい)の系譜

 日本に存在する、異能者の血族。

 正確には、”一意”という姓そのものに付与された特別性であり、生物学的な血の繋がりに関係なく、その姓を持った者は、否が応にも、ある種の特殊な性質を宿すことになる。

 ある程度、方針的に纏まりのある神領家や東岸家と異なり、系譜に属する人間が共通して持つ認識や価値観は存在せず、それぞれが思い思いの人生を生きている。

 その為、現状、魔術界隈や各異能者コミュニティにおいて、「集団として強大」との認識はなされていない。

 しかし、個々のポテンシャルは非常に高く、中には東岸家の姉妹にも匹敵する能力を持つ者も居る。

 

 一意の系譜に属する異能使いに共通した点として、異能が「破壊」に特化していることが挙げられる。

 破壊の方向性を「時間」に向け、過去や未来を現在に接続させる者や、「確定性」を破壊することで、自らが持つ可能性を一つに絞らず、複数利用する者などが居るが、本質的には全て「破壊」である。

 即ち、一意の姓を持つ者はみな共通して「破壊」の運命――《始源識》を持って生まれ、それが各々の在り方に沿った《特異能力》として分化するのだと言える。

 

 一意の系譜の源流は、「一意零霞(いちい・れいか)」という女性にある。

 彼女は稀代の特異能力者であり、世界全てを、そして女神――《唯一なる真理》すらも恐怖させた、最凶最悪の「世界の敵」である。

 女神が彼女に、いわゆる「トラウマ」のようなものを抱いたことで、「一意」という姓に対する《途心》が成立し、「一意」が特別性を宿すようになった。

 もっとも、「系譜」と言っても、彼女が誰かと子を成し、それが「一意」という家系を構成している訳ではない。

 そもそも、彼女は現代(西暦2000年前後)の時点ではまだ、この世界には生まれていないのである。

 生まれていない筈の人間が、いかにして世界に傷痕を残したのか。その謎を知る者はごく僅かである。

bottom of page